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大阪高等裁判所 昭和56年(ネ)1495号 判決 1982年4月16日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「一 原判決を取り消す。二 訴外吉田種一と被控訴人との間で昭和五一年一二月二〇日原判決事実らん第一の一(一)1、2記載の土地についてした代物弁済契約及び昭和五二年一一月同事実らん第一の一(一)3記載の建物(原判決別紙(一)目録(三)記載の建物)についてした譲渡契約は、控訴人と被控訴人との間においていずれも取り消す。三 被控訴人は、控訴人のため、原判決別紙(一)目録(一)記載の土地についてされた神戸地方法務局津名出張所昭和五一年一二月二二日受付第八五五八号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。四 被控訴人は、控訴人のため、右目録(三)記載の建物について、兵庫県津名郡北淡町室津一七四番地の三 訴外吉田種一に対し所有権移転登記手続をせよ。五 (主位的請求)被控訴人は、控訴人に対し、金三六〇万二六七七円及びこれに対する昭和五三年五月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。六 (右五の主位的請求に対する予備的請求)被控訴人は、控訴人のため、原判決別紙(一)目録(二)記載の土地について、前記訴外吉田種一に対し所有権移転登記手続をせよ。七 被控訴人は控訴人に対し、金三四五万四一一〇円及びこれに対する昭和五四年六月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。八 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び金員支払請求部分につき仮執行宣言を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張、証拠関係は、次に付加、訂正するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決事実の訂正

(1)  原判決三枚目表一一行目「至つて、」の次に「種一は、」と加え、同四枚目表三行目「(1)」を「一」と、同裏一二行目「(2)」を「二」と、同五枚目表一一行目「(3)」を「三」と、同六枚目裏一三行目「した」を「経由された」と、同七枚目表二行目「(3)」を「三」と、同一二行目「基いて」を「基づいて」と、同末行「被告に対する」を「種一が被告に対して」と各改め、同裏五行目「本件」の次に「土地の」と加え、同七、八行目「一、五〇〇万円」を「一、五五〇万円」と、同一一行目「全部」を「の全部である本件土地」と、同八枚目表五行目「建物」を「本件家屋」と各改め、同行の「「」を削り、同六行目「住居へ」を「居宅及び」と、同裏一二行目「訪づれ」を「訪れ」と各改め、同九枚目表五行目「。」を「、」と改めたうえ右「、」のあと改行することなく次の「税務署」に続け、同九行目「がのこり」を「しか残らないことが明らかであつて」と改め、同裏五行目「事実中、」の次に「本件土地すなわち」と、同六行目「買上げられた」の次に「一七四番一〇、一七四番一一の土地の」と各加え、同七行目「三五、九三八円」を「三五、九八〇円」と、同八行目「その」を「本件土地の」と各改め、同一〇枚目表一行目「(一)」を削り、同裏一三行目「(一)の根抵当権」を「一七四番二の土地の根抵当権は」と、同一一枚表二行目「(二)」を「一七四番三の土地」と各改める。

同一一枚目表六行目「不動産」を「土地」と改め、同末行「事実」の次に「のうち一七四番一〇、同番一一の二筆の土地の売却処分の点は認めるが、その余の事実」と加え、同裏一三行目「行はざるを」を「行わざるを」と、同一二枚目裏一〇行目「黙否」を「黙秘」と各改め、同一三枚目表六行目「当り」の次に「本件土地すなわち」と、同末行「土地」の前に「本件」と、同裏三行目「に分筆」の前に「と一七四番一二、五・五六平方米」と各加え、同一四枚目表七、八行目「二、五七万」を「二五七万」と改め、同八行目「(乙第九号証)」を削り、同裏一一行目「少い」を「少ない」と改め、同一五枚目裏一〇行目「主張の」の次に「とおり」と加え、同一〇、一一行目「一七四番二及び一七四番三、」を「本件土地」と改め、同一一行目「なされた」を削り、同一二行目「譲渡契約」の次に「がなされ、それが」と加え、同一六枚目表七行目「昭和四二年」を「昭和五二年」と改める。

(2)  同一六枚目裏一行目「第一八号証」の次に「、ただし、第一二号証は写し」と、同七行目「不知、」の次に「第一二号証の原本の存在及び官署作成部分の成立は認めるがその余の部分の成立は不知、」と各加える。

2  控訴人は次のように付陳した。

(1)  本件家屋は、吉田種一が建築資金(控訴人ら債権者に秘匿した金員)を出捐して建築したうえ被控訴人に贈与したものであること、控訴人が原判決九枚目表三行目から同裏四行目までにおいて主張したとおりであり、被控訴人主張のように被控訴人がその資金で建築して所有権を取得したものではない。

本件土地及び右のように種一が建築した本件家屋は、種一の所有する唯一の資産であり、種一はこれを被控訴人に譲渡してまつたくの無資産となつたのであるから、右譲渡行為は詐害行為となるものであり、右譲渡行為が離婚に伴う財産分与としてされたものであつたとしても、同様である。すなわち、もともと財産分与は離婚配偶者の一方に積極財産が存在する場合に他方の配偶者に対してその配偶者が有する当該財産の持分を返還するという思想に出たものであるから、本件におけるように種一の控訴人ら債権者に対する負債(消極財産)の額が積極財産の額をはるかに超えているときには実質的に積極財産は存在せず、財産分与の目的とすることができる財産がないというべきであるから、財産分与の名のもとにした財産譲渡行為も当然に詐害行為取消の対象となるのである。

これをすこしくわしくみると、まず、種一は、昭和五一年九月から一〇月にかけて倒産し、同年一一月一〇日には先に控訴人にあてて振出していた金額一五五〇万円の約束手形を不渡りとし、そのころ控訴人に対して一億二〇〇〇万円を超える元本債務と五〇〇〇万円に達する利息債務を負担し、居所を秘匿して控訴人からの追及を免れようとしていた。ところが、種一は、被控訴人と離婚した昭和五一年一二月二二日当日に本件土地につき被控訴人に所有権移転登記を経由し、次いで翌五二年三月一七日種一名義で本件家屋の建築確認申請をしてその建築に着手し、そのころ建築現場で出合つた控訴人の理事兼営業部長の谷田豊澄に対して本件家屋が完成すればこれを控訴人に対して担保として提供する旨約しておきながら、同年一一月竣工と同時に北淡町に被控訴人名義で登録し、また同年一二月一日被控訴人名義で所有権保存登記をしたのである。そして、種一には、他にみるべき財産はない。たしかに、種一は、兵庫県津名郡一宮町江井字赤松六四一番三山林六六平方メートル、同所六七〇番山林一一九平方メートルを所有してはいるが、前者は最低競売価額が二万七〇〇〇円、後者は同価額が五万一〇〇〇円程度のものにすぎず、実質的には財産価値がないに等しい。一方、種一が被控訴人に譲渡した本件土地のうち一七四番二の土地には淡路信用金庫のため根抵当権が設定され、一七四番三の土地については兵庫県信用保証協会のため根抵当権が設定されていたが、右金庫のための根抵当権は種一が昭和五二年三月一〇日被担保債務五三六万五四六五円を支払つて消滅させ、また右保証協会のための根抵当権は同月二四日同保証協会において放棄を理由に(誰からも被担保債権の弁済なしに放棄を原因として)消滅させており、結局、被控訴人は更地としての価値のある本件土地を種一から譲受けたのである。もともと、種一と被控訴人との離婚は偽装であるとの風評があり、種一は離婚後も被控訴人の住居に出入りしており、さらに、かねて控訴人の種一に対する取引上の通知、債務支払の催告状などは被控訴人の住居あてに発送され、また右の谷田が債務支払の督促のため種一宅すなわち被控訴人の住居を訪れたさい種一が不在であると、被控訴人に対して右債務支払の督促を種一に伝えてくれるよう依頼したこともしばしばあつたのであつて、被控訴人は本件土地、本件家屋を譲受けるにあたり、種一が控訴人に対して多額の負債を有しその支払に窮していたことを知つていたことが明らかである。以上のような事情からみて、種一が控訴人ら債権者の追及を免れるため本件土地、本件家屋を被控訴人に譲渡し、被控訴人も右譲渡をうければ控訴人ら債権者を害することを知つて更地としての価値のある本件土地及び新築の高価な本件家屋を譲り受けたのであつて、右譲渡が財産分与の名のもとにされたとしても詐害行為として取り消されることを免れえないものであることが明らかである。

(2)  本件の詐害行為取消権の消滅時効は昭和五二年一二月末ごろから進行する。民法四二六条にいう債権者が取消の原因を覚知した時を本件についてみれば、債権者である控訴人において単に吉田種一の本件土地、本件家屋の譲渡行為を知つただけでは足りず、それが詐害行為となることを「確知」した時でなければならないところ、(1)でのべたとおり、種一は昭和五二年三月ごろ本件家屋の建築現場で谷田に関して本件家屋を完成時に控訴人のため担保に供する旨約し、その後同年一二月一日に約に反して被控訴人名義の保存登記を経由したという事情があるが、控訴人においては、同月末ごろ右事情を知り、かつ種一と被控訴人との離婚が偽装であるとの風評を聞き、また種一が疑わしい行動をしていることを知るに及んではじめて右各譲渡行為が詐害行為にあたることを確知したのであるから、右時効はその時から進行を始める。

そして控訴人が右時点から二年を経過する前の昭和五四年四月一七日本件土地、本件家屋につき仮処分決定を得、次いで同年五月二日本訴を提起したことにより、右時効はそのつど中断した。

3  新たな証拠(省略)

理由

当裁判所は、控訴人の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一七枚目表二行目、同四行目各「争」を各「争い」と改め、同六行目「第一三号証の一、二」の次に「第一九号証、第二〇号証の一、二、第二一、第二二号証、」と、同八行目「谷田豊澄」の次に「(後記措信しない部分を除く。)、同仲野佐敏」と各加える。

2  同一七枚目表一一行目「一七四番二」の次に「地上の吉田徳三郎(吉田種一の父)所有の建物」と加え、同裏一一行目「種一或は」を「、控訴人において、種一の共同債務者(種一が受取人兼第一裏書人である約束手形の第二裏書人)である吉田考(種一と被控訴人間の二男)を相手方として申し立てた不動産任意競売事件(神戸地方裁判所洲本支部昭和五三年(ケ)第七号)で有限会社寿宝商事所有の担保不動産について競売手続が進行中であり、また種一を相手方として申し立てた不動産任意競売事件(同支部同年(ケ)第一一号)で種一及び」と改め、同一二行目「ついても」を「ついて」と改め、同行「あること」の次に「、」を加える。

3  同一八枚目裏四、五行目「予ねてより離婚のことを考えていた」を「昭和四九年ごろから種一と離婚しようと考え出し、同人に離婚したいと申し出たところ、当初は種一に申出を拒まれた」と、同八行目「離婚を決意した」を「、次第に離婚の意思を決定的なものとし、種一に離婚を求めたところ、種一もついにこれに応じた」と、同末行「ことに」を「ことと」と各改める。

4  同一九枚目裏一行目「話をし」の次に「、離婚前に被控訴人は種一と同席のうえ種一の知り合いである来田工務店こと来田貞香の紹介した仲野佐敏に建築設計を依頼し」と加え、同四行目「(1)(2)(3)」を「一ないし三」と、同五行目「結果」を「結局」と各改め、同八行目「先づ」を「改めて来田貞香に先の設計に基づき家屋を建築することを依頼したところ、種一と離婚したのちであるため、いつたん断られたが、被控訴人においてかならず建築代金を支払う旨のべて再度依頼したところ、来田貞香もこれに応じることとなり」と改め、同一〇行目「本件建物」を「本件家屋」と改め、同一一行目「請負契約したところ」を「建築する請負契約を締結し、来田貞香において約定にしたがつて工事をし」と改め、同一二行目「右建物は」を「被控訴人は本件家屋の」と改め、同二〇枚目表一行目最初の「こと、」の次に「被控訴人は右建築代金のみならず前記設計料及び旧建物取毀費用もすべて自ら完済していること、」と加え、同二行目「唯一の不動産ではなく」から同七行目終りまでを「唯一の不動産ではないものの、前記任意競売事件(昭和五三年(ケ)第一一号)において競売の目的とされた種一所有不動産はごく僅かな価値しかないものであり、結局本件土地譲渡時においては本件土地が実質的に種一の唯一に近い不動産であつたこと、もつとも種一はその経営する前記有限会社寿宝商事所有不動産を控訴人に対して担保として提供しており(同不動産は右種一所有のものに比べれば、かなりの価値がある。)、同不動産については前記のとおり任意競売手続(昭和五三年(ケ)第七号、同第一一号)が進行中であること、」と改める。

5  同二〇枚目表八行目「なお」から同末行「ない。」までを「なお、原本の存在及び官署作成部分の成立に争いがなく、その余の部分につき前記仲野の証言により成立を認める甲第一二号証によれば、本件家屋の建築確認申請書が右離婚後の昭和五二年三月一七日、種一名義で種一を建築主として北淡町長あて提出されていることが認められるが、前記乙号各証、右仲野の証言、前記被控訴本人尋問の結果に弁論の全趣旨を合わせると、右申請は仲野佐敏がその事務を代行してしたものであるところ、同人は右離婚前に種一が被控訴人から種一の名で住宅金融公庫から融資をうけて本件家屋を建築する計画であることを聞いており(この計画は実現できなかつた。)、融資をうけるはずの名義人に合わせて、かつ種一と被控訴人とが離婚したことを確めずに、安易に種一の名で右申請をしたにすぎないものであり、前記のように仲野のした設計の費用、来田のした旧建物の取毀し及び本件家屋の建築の費用ないし代金をすべて被控訴人において支払つていることが認められるのに徴すれば、右甲第一二号証が存在するからといつて、被控訴人がその費用で本件家屋を建てて所有権を取得したとの前記認定を左右するものではない。」と改め、同末行「そして、」の次に「原審、当審」と加える。

6  同二一枚目表一一、一二行目「あることが認められる」を「あつて、もともと被控訴人は実質的に種一より大きな共有持分権を本件土地について有しているものといえる」と改め、同裏二、三行目「、本件土地が種一にとつて唯一の不動産ではないこと、その他」を「などの」と改め、同三行目「考慮するとき、」の次に「本件土地が種一にとつて実質的に唯一の不動産に近いものであることをしんしやくしてもなお」と改め、同五行目「特に」から同七行目終りまでを「詐害行為にあたるものとはいえず(成立に争いのない甲第一四号証、第一五号証の二によると、本件土地のうち一七四番二の土地につき淡路信用金庫のため設定された根抵当権の被担保債務五三六万五四六五円が昭和五二年三月一〇日債務者吉田種一により弁済されて根抵当権が消滅した旨を、同金庫が大阪弁護士会長の照会に対して回答していることが認められるが、前認定の事実から右の時期は種一が倒産したのちで支払能力もなかつたことがうかがえること、及び前記被控訴本人尋問の結果に徴し、右弁済は実際には被控訴人がしたと推認され、被控訴人は右一七四番二の土地譲受において右弁済額を控除した価値しか取得しえなかつたものである。しかし、かりに右土地及び一七四番三の土地について、すなわち本件土地全部について、控訴人主張のように、被控訴人において本件土地に設定された根抵当権の負担を免れるために出捐をせず、したがつて被控訴人の本件土地譲受をもつて当事者間に争いのない九八九万二三四〇円の価値を取得したといえるとしても、その一方で右価値についてはもともと実質的に被控訴人が種一より大きな持分を有していたという事情、その他前記諸事情を考慮するときは、本件土地譲渡は本件離婚に伴う財産分与及び慰籍料の支払として相当なものということができるから、これを詐害行為にあたるとすることはできない。)、他に本件土地譲渡を詐害行為と認めうる証拠はない。」と改める。

7  同二一枚目裏七行目の次に改行のうえ次のとおり加える。

「当審における控訴人の主張にも徴し、詐害行為取消権の消滅時効の点について念のため判断する。

かりに本件土地譲渡行為が詐害行為にあたるものといえるとしたときは、原審、当審谷田豊澄の証言により、控訴人の理事である谷田は、昭和五二年一月ごろ、種一から被控訴人に本件土地の所有権移転登記手続がされ、かつ種一と被控訴人との離婚届がされていることを知り、本件土地譲渡は控訴人の種一に対する債権の回収を危くするものであると感じたことが認められ、これに反する証拠はないから、控訴人が金融機関であることも考えると、控訴人においては右昭和五二年一月ごろ本件土地譲渡行為が取消の原因となるものであることを覚知したものであり、この時から二年の経過をもつて控訴人の詐害行為取消権は時効により消滅した(右二年経過前に時効中断事由があることについての主張、立証はない。)といえる(控訴人の取消原因を覚知した時の意味についての解釈及びこれを前提とする時効起算点についての事実主張は、とうてい採用しがたい。)。

結局、被控訴人の時効の抗弁も理由がある。」

8  同二一枚目裏九行目「あるから、」を「あるから(また、右に念のため判断したとおり詐害行為取消権は時効で消滅したともいえるから)、控訴人が」と改める。

そうすると、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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